鬼滅の刃 / 吾峠呼世晴 23巻 感想 【ネタバレあり】

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珠世の薬で弱る無惨に追い打ちをかけ続ける隊員達。激しい技の応酬。少しずつ体力が削られていく無惨。ボロボロの炭治郎は日輪刀で無惨を壁に追い込む。夜明けは近く、このまま固定できれば日の光に晒すことが出来る。

夜が明け、日が差す。無惨は日の光を防御するため体の形を変え絶体絶命の状況を逃れようと必死に抵抗をし、炭治郎は膨れ上がった無惨の体に飲まれてしまう。
動ける隊員達全員の力で無惨をせき止めようとするが、しぶとい無惨はあの手この手で日の光の当たらない場所へ逃げようとする。しかし、飲み込まれた炭治郎の一撃が効き、日の光を受け止めきれなくなった無惨はそのまま灰と散っていった。

無惨を倒した隊員達。しかしその代償はあまりにも大きく、柱を含め、多くの死者を出してしまった。それでもこれ以上死人を出さないために、生き残る負傷者の手当を急ぐ隊員達。そんな中、炭治郎はその場で息絶えていた。

無惨は、炭治郎を飲み込んだ際、自らの血を炭治郎に与えていた。死を悟った無惨は、鬼の素質のある炭治郎に自分の思いを託した。
そうして、鬼化してしまった炭治郎は目を覚まし、隊員達に襲いかかる。
炭治郎を炭治郎のまま逝かせる、殺すしかないという葛藤の中隊員達は炭治郎へ刃を向ける。しかし、日の光を克服し、日輪刀も効かない炭治郎に隊員達は苦戦する。

珠世の作った人間に戻す薬を、カナヲはもう一つ持っていた。炭治郎に薬を打ち込む。無惨のすがるような思いをよそに、炭治郎は皆の元へ戻っていく。そして、人間に戻った炭治郎は目を覚ました。

三ヶ月後、落ち着きを取り戻した皆は、蝶屋敷で療養中。失ったものが多い中、生き残った人たちは、亡くなった人たちの思いをそのままに、前を向いて歩いていく。

時が経ち、現代の東京。炭治郎達の戦いは昔話となり、現代へ受け継がれていた。彼らの子孫らは、今も元気にこの世界で生きている。

【感想】

鬼滅の刃、最終巻です。所々涙してしまうシーンもあり、感無量です。堂々とした最終巻でした。

発売のタイミングも、素晴らしいものだと思います。こんな情勢の中で、一つのコミックスがここまで売れて、それがこのタイミングで最終巻。もはや伝説にもなり得る記録的作品となりましたね。

十分、様々な人に支持されて余りある作品だと思います。小細工せずに、作者の人柄が滲み出たストレートなメッセージや思いが作風に溢れていて、やはり良い作品というのは単純な作りの質や理屈ではないんだなあと改めて気付かされます。
鬼滅に対して、他の「出来」の良い作品を引き合いにして比べるのは非常に野暮というかナンセンスというか、批評家もお手上げの実績を作ってくれました。作者さん、お疲れさまでした。

内容ですが、初めはとにかく技の連発。珠世の薬という最強道具がやはり読者的に引っかかる部分だろうなと、そこは否定できませんが、そこを乗っかれないんじゃ漫画好きとしては残念というか、もったいないと思ってしまいます。

技名連発で、実際技を言われても何をやっているのかよく分かりませんが、「とにかく攻撃をしている」ということはわかりやすい。言い方悪いですが、ジャンプのターゲットである小中高生に対しては非常に効く戦闘シーンのような気もします。個人的にはこの辺ちょっと物足りない気もしました。

日の光のみが殺す手段、ということでとにかくやることは一つ。最後の方は無理やりというか、格好悪くても結果を残すことだけを、というような隊員達の執念がこれでもかと多い被さってきていて、このダサさこそが鬼滅の良いところで魅力だなあと感じますね。

無惨との戦いで死ぬことになった柱達のシーンはかなり心に響きます。それぞれエピソードをしっかり描いてくれていたおかげで、感情移入度が高い。悲鳴嶼と甘露寺、伊黒のシーンは本当に涙腺に来ました。

 

鬼滅の刃 23巻

 

鬼滅の刃 23巻

しかしここで終わらないのはクライマックスではままある展開。鬼滅も漏れず、無惨の執念が最後の戦いを産みます。
と言っても、無惨はある種、心からの敗北を喫していて、産屋敷受け売りの思いで最後のあがきを見せます。この敵キャラの独白こそ鬼滅の真骨頂。最終的には炭治郎はみんなに引っ張られ無惨を引きはがしますが、この哀れさたるや。ざまあと思いつつ、どこか空しくもなってくるのは上手い描き方で素晴らしいなあ。

 

鬼滅の刃 23巻

 

鬼滅の刃 23巻

個人的にすごく心にきたのが、炭治郎が鬼化してからすぐの、伊之助が止めに入るシーン。誰かがおかしくなったら誰かが止めような、という会話があり、それでもやっぱり斬れないと、伊之介が涙を浮かべるシーン。何気ない2ページですが、この巻で一番響いたような気がします。

 

鬼滅の刃 23巻

 

鬼滅の刃 23巻

ラスト2話はエピローグ。作中の時代での締めと、その後の現代の話。思いは受け継がれる、というテーマはまさにこのエピローグが語ってくれています。

この2話は絵のデフォルメが強く、少し間延びしたような印象を受けてしまったのでもう少し書き込みがあっても良かったのでは…とは思うんですがまあ置いておきましょう。
初めの方はある意味誰と誰がカップルになるのか的な話でもあります。これは最終話に繋がりますね。
そして、竈門家に起こった災難のけじめ。こういう部分をしっかりやってくれると印象がとても良いです。ぶっちゃけこれが事実上の最終話のような気もします。

そして、実際の最終話はサービス回というか後日談というか、そんな印象。それでもこの作品が描きたかったことはきっと、ここまで描いて完成なんだなとは思います。
炭治郎たちが曾曾おじいちゃんというと、ここに描かれた炭彦たちはもう遺伝子的には炭治郎やカナヲの面影はほぼないような気もしますが、とりあえず炭治郎たちの子供やその子供やそのまた子供…と、ずっと何事もなく繋がっていってくれたということだけで十分です。
また、死んでしまったキャラ達も生まれ変わりのような形で登場させているのも、やはり作者さんの人柄というかサービス精神というか、尊敬です。まあこういうのはオタク界隈の人たちは好きでありがちなやつですが。笑

そしてラストにエピローグ後の追加8ページ。余韻を感じさせる素敵な語り。誰の言葉かという明言はなくとも、これで良い、素晴らしい。

 

ビッグタイトルとなった本作。鬼を敵として扱い残酷描写も多いのに、作品全体に優しい雰囲気がありそのマッチングが絶妙。ちゃんと売れるべき作品が売れて漫画好きとしても嬉しいです。(しかし他にも売れるべき!という作品がいっぱいあるのが口惜しい…!)

漫画やアニメに興味なかった人たちまでもが手に取ってくれたという、日本の素晴らしい文化を広めてくれたという意味でも、コロナ禍の中で経済をここまで動かしたという意味でも、この作品の漫画界、社会への貢献度は滅茶苦茶高いですね。

初連載がここまで大きなものになって、きっと吾峠さんとしても手に余る程の作品になってしまったと思います。米津玄師がLemonのヒットで語っていた、自分の手元からどんどん離れて勝手に成長していく感覚、吾峠さんはきっとそれ以上のものを今感じていると思います。

実際、このヒットはufotableのアニメの力が強かったというのは事実としてありますが、吾峠さんも間違いなくこの連載が糧になったはずで、やはり、次回作には期待せざるを得ません。

しばらくはお休みでも良いとは思いますが。笑
またジャンプに戻ってくる日を楽しみにしています。

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