乙嫁語り / 森薫 3巻 感想 【ネタバレあり】

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アミル達の元を離れたスミスは、案内人と落ち合う予定の村でタラスという女性と出会う。

流れで家に招かれたスミスは、共に暮らすタラスのおばあさんからタラスの話を聞く。

これまで五回、夫に先立たれており現在はおばあさんと二人暮らし。五度結婚をしているが現在は未亡人のまま。タラスには再婚をして幸せになってもらいたいというおばあさんは、スミスに貰い手になってくれないかとお願いをする。

放浪するスミスにその気はなく、タラスを良い人だと思いつつも出発を決めた。

戻ってきた村で、部外者を良く思わないタラスの叔父の策略により捕らえられてしまったスミスだが、案内であるアリに助けられる。そこへアミルとカルルクも駆けつけ、更にはタラスまでも。

話を聞くと、タラスはスミスのことを既に好いていた。スミスは現状の自分では結婚は現実的に厳しいと考えるが、いつか戻ることを約束し、証として高価な時計をタラスに預けた。

しかしタイミングが悪く、おばあさんはタラスの嫁ぎ先を見つけるため叔父との婚約をしてしまっていた。スミスはタラスに会わせてもらえず、そのまま村を発つことに。

アリに連れられ目的地を目指すスミス。タラスから返却された時計を投げ捨て、複雑な気持ちを抱いたまま前に進む。

【感想】

タラスとスミスの恋模様。こんなにも切ない終わり方があっていいものか…。

タラスの最後の登場は叔父に引かれスミスに手を伸ばす涙ながらのコマ。以降、なにも描かれていないのが非常に寂しい。
その後のアリ達との会話で、父親が言うならしょうがない、と一言で片づけられるそういう文化も中々ツラいものがありますね。スミスははてな顔でしたが、アリとカルルクは当然のごとく話をしています。

「本人もそのつもりで先にその約束をしていたのですから、いきなり父親だから無かった事にと言われても納得できないと思うのですけど」

というスミスのセリフに対して、親には逆らえないだろう、そんなひどいことは出来ない、と返すアリとカルルク。
特にアリの「可哀想なこと言うなよ」というセリフが妙に引っかかりますね。叔父が道化となることが不憫なのは分かりますが、一番可哀想なのは納得できずに引き離されたタラスのはず。娘の気持ちを思うことよりも、父親のメンツが上位に来る。父親が絶対という文化の中では、こうも切ない別れがあるものなのですね。この地域、この時代の駆け落ちなんかは、相当な大罪になりそうです。

もちろん現代の日本もその文化は根付いていますが、それは形式上の物であって、「父親は絶対的存在」という意識は既に廃れているので安心しています。多角的なものの見方が出来るようになった現代に生まれていて良かったな、と思います。

あとこの巻は料理も目を見張りました。
下手な料理漫画よりも美味そう。あとアリが料理の手順に文句言うシーン、リアルだなあと笑ってしまいました。こういうさりげないシーンが好きです。その後キジをさばくアミルも良いですね。

アリのサバサバしたキャラクターは新鮮で、作品を活気付けてくれている印象。急に明るくなったような。
ここからはまた、スミスの語り部としての役割。次の村での乙嫁さんはどんな人でしょう。

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