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桃の実家で作品制作に臨む八虎たち。
そこで真田という八雲たちの友人が殺されたという話を聞きます。
大事に残されている真田の備品を見て、気になっている八虎。八雲や鉢呂は気持ちの切り替えは出来ていると言っても、やはりどこか引っかかったままのようです。
参加しようとしているコンペ、AOJは入賞したら美術館に二週間展示されるということを聞き、そんなところを目指してみんなは制作しているのかと、八虎は急に自信がなくなっていきます。
まあ、これがいつもの八虎ですね…。真田も自分で個展を開いていたということは聞いていて、同じ年代でそこまですごい人がいるんだ、と感銘を受けてます。やはり八虎は日が浅いのもあってその辺の将来についてはまだ考える余地がない感じはありますね。
真田の作品を「蟹江ギャラリー」というところが買い取りたいという話が出ていて、八雲や鉢絽はその蟹江ギャラリーに良い印象は持っておらず、どうすればいいか悩んでいる真田の母親にはやめたほうがいいと助言します。
後日ホームセンターに買い物に来た八虎たち。そこで偶然その蟹江ギャラリーの蟹江本人と対面。
蟹江のねちっこい物言いと八雲を馬鹿にした発言に八虎はキレますが、八雲が止めに入ります。
これで何となく蟹江ギャラリーの本質がわかりましたね。鉢絽が真田の作品を渡したくない理由も。
八虎は蟹江に言われた「恵まれている」ということが引っかかっています。奨学金を借りずに芸大に行けているのはお金に余裕がある家だから、あなたは恵まれているね、と。
その「恵まれている」ことに無自覚だった自分に落ち込む八虎。
八雲に散々、金がなくてもそこまでの節約は出来ない、と少し引いていた節がありましたが、それは自分が恵まれているからであって八雲のことを考えられていない、自分は蟹江と似たようなもんだ、と。
まあ自分が置かれている環境は俯瞰して見辛いし、恵まれていれば尚更、不満が出ないとそういった俯瞰視点で見る機会がないんですよね。幸せは失ってから気付く理論と似たような感じで。だから日々、トラブルや不満がなく生きてこれていることやそもそもの当たり前を享受できていることを、当たり前じゃなくて幸せなことなんだと理解することは重要だなと思います。
日本ではどんなに貧乏でも綺麗な水は飲めるし、どんな病気をしても一応医者にかかることは出来る。運が悪いことは誰にでも起こりえますが、アフリカやアジアの端の方でただ生きるだけでも苦労するような環境下とは雲泥の差ですし、やはり自分が恵まれた環境にいるという自覚は必要なことだとは思います。
蟹江の言い方は明らかにおかしいですし、初対面の人に言うことではないし…あれは恐らく八雲を挑発したかっただけなので八虎がキレるのはごもっとも。
その後のバーベキューで八雲から、
「生まれる環境は才能で、才能には自分の責任はない」という風に言われます。
さすが、こういう視点がこの作品の真骨頂です。八虎は八雲にそう言わせたことで更に落ち込んでしまいますが…笑
ここから、八雲の過去話に入ります。
シングルマザーで裕福ではなかった八雲の家。子供の頃から絵を描くのは好きで才能もありましたが、周りの人とは違う環境ということが八雲を少しずつ普通からズラしていき、絵に興味はありつつも高校出たら働くだろうと思っていました。
そんな中、偶然出会った不思議な女性。メンヘラチックで危ない女性でしたが、画家として生活しており、夢は孤児院を開くこと。八雲は彼女の話が何となく好きで、一緒にいることが多くなります。
ある日二人で行った美術館で1枚の絵に衝撃を受け、それからは絵に没頭。彼女に教わりなが技術を勉強し、芸大を目指すことに。
しかし現役では不合格。予備校に通うことになり、そこで出会ったのが真田でした。
八雲の絵に対する行動のキーになった女性、この後は出番がないのですが、八雲にとっては大きな存在だったはず。師匠とまではいかなくても、八雲に影響を与えた大きな人物であることに間違いはないです。
予備校に通い始めて、つくづく貧乏を痛感する八雲。金持ちの家に比べて、なんでこんなにハードなのかと。ただ、絵は金がなくてもかける。貧乏ながらものし上がった人もたくさんいる。そうやって言い聞かせてひたすらバイトと絵に向き合う八雲ですが、実際金がかかることが多いことも事実。その大変さをひしひしと感じる毎日。
この現状を「才能」と受け止めて前に進む八雲の精神はすごい。おそらく普通なら僻んだり妬んだり、嫌になったりヤケクソになったり、ウチは何で貧乏なんだと苛立ったりしそうなところ、出来る範囲のことをひたすら頑張る。この精神は本当にすごい。
お母さんが嫌いなわけでもなく、むしろ初給料でケーキを買って帰る優しさ。家が貧乏なことを親に当たるでもなく、「才能」と割り切れるのは並の人間じゃ出来ません。
普段へらへらしていて態度も大きくてヤンチャ感はすごいですが、優しさもあり現状を受け止める強い精神力もあり、すごい人です。八雲は。
そして、真田ですね。かびの生えたパンを咥える真田。変人そのもの。ただし、予備校では圧倒的な実力を誇る天才少女。
たまたま個展を開いているところに八雲が遭遇し、真田を羨ましがりますが、真田も実は貧乏。バイトで稼ぎ、出費は切り詰めて制作に没頭、ないお金で個展を開き、売れなかったら予備校をやめる。
そして、真田は予備校から消えたのでした。
八雲は真田を目標に、藝大の受験に励みます。真田は無事に藝大に合格。八雲は予備校を辞め、真田の紹介でバイトをすることに。それが広島の桃の家でした。
桃の絵の講師として働くことに。桃はずっと怪訝そうですが、八雲の絵に対する考え方に心を打たれて、それから二人は順調に制作を進めていきます。
本当に八雲はいろんな視点から物事を見るのが上手い。
一人で練習していてもいつかは堂々巡りになり先に進まなくなることがある。自分から見えるものはあくまで自分から見える範囲でしかないと。長所も短所も、別の角度からでないとわからないことがあって、それは人それぞれ違うと。
桃の描きたいように描いて欲しい、八雲は心からそう願いつつも、描きたいものを描くには技術がいる、だから桃に技術を教える。このバランスが素晴らしい。
「桃代ちゃんが描きたいもののために技術ってもんがあるんだから」
という八雲のセリフ、かっこよ。
桃はちゃんと上手くなっていってます。八雲先生のおかげで。
ちなみに鉢呂は桃の家の仏具を売っている営業で、八雲とはここで出会います。鉢呂も絵を描いていましたが、夢は諦めて今ではサラリーマンとして営業に励んでいます。
鉢呂の少し冷めた言い方が八雲の気に障りますが、今では仲良しなのに最初はこんなだったんですね。
そして、八雲は桃のお父さんから、ここで一緒に住まないかと打診されます。
八雲にとっては願ったり叶ったりな話で、当然受け入れて桃の家に。家の手伝いをしながら桃の先生も継続となりました。
桃は藝大を目指すと言います。八雲が桃の気持ちを大事にしてくれたからこそ、桃は苦手なデッサンも練習して、好きなこと以外も頑張らなければいけない受験にも臨めるんだと、八雲に伝えます。このシーンはちょっと熱いですね。
鉢呂も実は絵に対して再燃。真田が最近憧れていた画家だと知り、またふつふつと絵に対する情熱が盛り上がったよう。真田の影響力は本当にすごい。
そんな真田に蟹江ギャラリーから個展のオファーが。益々遠のく真田に、八雲は嫉妬のようなものを覚えます。
目の前のキャンバスしか見えていない、そんな真田を後ろから追いかける八雲。
ただ、真田は八雲のことをいい絵描きだと言います。桃の進路について、ありがとう、と。
八雲は真田を追いかけ、来年は同じように藝大で。そしていつか有名になって…。
その後、突然の別れが訪れるのでした。
事故のようなもの、ただし真相は分からない。さっきまで普通に喋っていたのに。ここで14巻は終わり。
八雲のことがよく知れた14巻。一気に株が上がりました。おちゃらけながらもこんな過去があったとは…という感じ。
また、死がこんなにも重くのしかかるのは今作でも初めてですが、八雲の人生を描き切るには重要なものなのでしょう。
八虎の存在が薄かったですが、ブルーピリオドはサブキャラの人生も本当に濃く描いてくれる。どのエピソードも、セリフ一つ取っても素晴らしい。
桃の実家編、と言うのかもわかりませんが、この八雲の話は八虎にも大きく影響を与えるでしょうね。藝大を出た後の在り方について、考えさせられる話になるんじゃないかと思います。
新刊が出る度に感銘を受けてます。本当にすごい作品だなあ。当然次巻も楽しみです。