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東洋の魔窟と呼ばれる「九龍城塞」。どこか懐かしさを感じさせる、独特な雰囲気の九龍では、「ジェネリックテラ」という地球のコピーを建設中。立ち並ぶ廃れた建物群の空には、似つかわしくない物体が浮いている。
そんな九龍内の不動産屋で働く鯨井令子と同僚の工藤とのラブロマンス。
【感想】
舞台は香港に実在したスラム街、九龍(クーロン)。設定に何の説明もないので、名前だけ借りた似たような街というイメージでいいのかもしれません。
狭い路地裏、立ち並ぶ露天・屋台、建物と建物がひしめき合い薄暗くノスタルジックな雰囲気。
実際の九龍はスラム街として有名で完全な無法地帯。インフラも整っていなく違法建築物の山、上下水の整備もないので生活環境は最悪という街でしたが既に取り壊されてしまい現在はありません。
しかし住む人たちはその環境を受け入れ、無法だからこそ住み続けるためには人との関係を重んじていたとか。
そんな九龍の良い部分を反映させ、ある程度生活環境を整えさせた現代版九龍。そこに、未来を思わせるジェネリックテラという構想。
そして1巻の最後には大きな展開があり、それまでの話が全て伏線になりうる、現代・未来・「過去」も交えた時が交差する世界観。
雰囲気はこの作者独特で味がありますね。前作「恋は雨上がりのように」では10代の恋愛を描いていましたが、今作は30代同士の大人の恋愛。
前作が好きな自分としては今作もそれなりの期待を寄せています。
主人公の鯨井は既に同僚(先輩?)の工藤のことを思っていますが、工藤は何を考えているのか分からず。
勝手に振り回されている鯨井が愛おしくて、、表情が豊かで笑顔やあきれ顔、照れ顔等それぞれ魅力がありその度に心を動かされます。
二人とも喫煙者ですが、たばこが絵になること。確実に意識して描かれていますが、舞台とマッチしているのでこれは良い絵だなあ。
鯨井は妙に色気があって、作者も意図的にエロチックなシーンをぶっ込んで来ています。前作にはなかった、大人の恋愛の一端がこういった描写に表れるのかなといったところで…まあ不要と言えば不要ですが。笑
ただの恋愛ものに留まらない独特な世界観で、1巻通してしっとりじっくり読めます。作者贔屓も少しありますが、廃れた雰囲気やスローなテンポ、大人向け恋愛が好きな方にはおすすめ。
…そういえば少し前に川崎にある九龍をイメージしたゲーセンが潰れてしまうということで行きましたが、中々の雰囲気で驚きましたね…。どちらかというとホラーでした。こういった面白味のある建物がなくなるのは寂しいですね。