煙と蜜 / 長蔵ヒロコ 1巻 感想

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大正五年、名古屋。12歳の花塚姫子は両親と四人の女中さんと暮らしている。そんな姫子には年の離れた許婚がいた。

土屋文治、30歳。歩兵隊を率いる軍の少佐であり、姫子の許婚。花塚家に時折出入りしてはお世話になっている。

【感想】

大正時代初期のある家庭の日常と恋愛を描いた作品。

ただ、恋愛といってもそこまで発展していないような気もして、姫子は文治に対して憧れのような気持ちが強く、文治は姫子に対して壊れ物を扱うような一歩引いた感じがあります。もちろん、許婚ということで意識はし合っていますが。

 

煙と蜜 1巻

それもこれも、年の差ということ。今作ではこれが一番需要な要素ですね。ただ、好きな人は好き、嫌いな人は本当に駄目かもという描写もあり、この辺は読む前に理解しておいた方がいいかもしれません。
30歳のいい男が小学生に色気を使う描写があるというだけで、生理的に無理な方もいそうです。まあ、あえて誇張した表現をしているだけで、実際、文治はしっかり線を引いていますしそれはわかると思いますが…。

煙と蜜 1巻
煙と蜜 1巻

時代考証については色々意見があるかもしれませんが、キャラクターをあえて現代チックに寄せているので、大正の「雰囲気」が描ければ良いということでここは許容すべきところかなあと思います。そのおかげでかなり読みやすく仕上がっています。女中さんたちの少し騒がしい感じが好きです。

まあ結局「この時代は云々」と言ってもその時代を現代人は知りませんし、そんな時代にも個はあるわけで、時代にそぐわない考えを持つ家や人がいても何も不思議ではないので、そうやって大抵のことは流していけるとこういったエンタメは楽しめます。

物語としては特に何かが動くわけでもなく日常を切り取ったものですが、キャラクターの動き一つ一つが丁寧で細やか。
母親が倒れてお医者を呼びに行くシーンは、7ページもかけていますがセリフは最小限。姫子の焦りがすごく伝わってきます。

 

煙と蜜 1巻
煙と蜜 1巻

また、作りすぎた料理を食べる文治のシーン、ただ無言で食べるだけで5ページ。これが存外に良くて見入ってしまいました。姫子が「ずっと見ていたくなる」と目を輝かせていますが、これが漫画の力だなと改めて驚かされます。映像ではなく、コマ送りだからこそ出来るテンポ。何より文治が美しい。

 

煙と蜜 1巻
煙と蜜 1巻

一つ気がかりなのは、文治と花塚家の関係。年の差の許婚というのは、そういうのを描きたかった、というだけではなかなか厳しいものがあるので何かしらのバックボーンはあって欲しいですが、おそらく普通ではないので、これから何も起きずストレスも不安も不穏な雰囲気もなく順風満帆に進んでいく…という気がしないので心配です。

一巻では特に何も事件は起きず、とある家庭の一日一日が描かれつつ、二人の距離が少しずつ近づいていく。それだけで十分と思わせてくれる描写の丁寧さ。

絵が綺麗で線がはっきりしていて、とても読みやすい。ハルタお得意の、雰囲気で最後まで読ませてくれる良作です。

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