ファイアパンチ / 藤本タツキ 8巻 感想 【ネタバレあり】

↑試し読み、購入できます。(画像クリック)

ユダを追うアグニ。遮るアグニ教たちを燃やしながら、徐々に近付いていく。

ユダを奪還しサンのもとへ戻ったネネトだが、サンはユダをここで燃やすと宣言する。
世界はこのまま寒いままで良い。その方がアグニをより信仰できると言う。ネネトは、アグニをただのかわいそうな人だと言うが、サンはそれを否定。アグニは神様であり、奇跡の人だと断言する。

そこへアグニが到着する。しかし炎に纏ったアグニの顔は変貌していた。何かに取り憑かれていると思ったサンは、アグニに攻撃を仕掛ける。一度は正気を取り戻すも、サンはとどめを刺す。
燃え尽きたアグニだが、走馬燈のように流れるルナ(ユダ)の記憶がアグニに最後の灯をともす。そして記憶が混乱しているアグニは、サンを燃やしてしまう。

サンを殺したアグニに、ユダが近付く。
「今度は貴方のなりたい貴方になって」と告げ、ユダはアグニを破壊する。すると破壊されたアグニから、もう一人のアグニが生まれた。
ユダはもう一人のアグニをネネトに託し、アグニを幸せにすることを条件に、ユダは木になった。

80年後、暖かくなった世界でおばあさんになったネネトは死の間際だった。姿の変わらないアグニは記憶を失っており、サンとして育てられていた。

ネネトが亡くなり、教え子から地球がもう長くないことを知らされるアグニ。教え子から渡されたのは、トガタの撮ったファイアパンチの映像。知らない燃える男を見ながら、アグニは拳を強く握っていた。

木となり暇を持て余すユダ。気付けば数千年、数万年が経っていた。ただ一人の男のためだけに、この永遠を過ごすユダ。
暖め続けていた地球は、何かにぶつかり粉々になっていた。既にユダは、何のために、何故自分がここにいるのかも忘れてしまっていた。

数千万年後、この苦痛が永遠に終わらないことに気付くユダ。誰か助けて、そう願うと遠くから一人の男が近付いてくる。

アグニだった。地球が粉々になった際、宇宙へ放り出されて数千万年漂っていた。
サンと名乗るアグニ、ルナと名乗るユダ。二人は少しだけ話した後、共に眠った。

【感想】

ファイアパンチ最終巻。
正直なところ、一度読んだだけでは理解が追いつかず説明しろと言われても何も書けないのですが…。

このブログは考察ブログではないので細かいことは書きません。
ただ、とりあえずアグニとユダ、二人が最後に出会えてよかった。

サン(太陽)とルナ(月)として、本当の自分ではない自分として宇宙で最期を迎えるという、スケールのでかい話。考え出すと何だかよく分からなくなってきます。

最終ページ、映画館を出るアグニとルナが描かれ終わります。この物語が映画だったのか、アグニとユダが死んだという比喩なのか(トガタが、死ぬと映画館に行くと言っていたので)、その辺は読者の想像にお任せってところでしょうが、作者としてはどういった気持ちだったのでしょう。この作者さんは最初から最後までぶっ飛んでいました。間違いなく、唯一無二の実力を持った漫画家です。

この漫画のテーマは、ユダの言った「人はなりたい自分になってしまう」ということでしょうか。
自分がどう思い続けるかで、自分自身が変わっていく。アグニの復讐心だったり、サンの信仰心だったり。なりたい自分、という自覚なしに、自分の気持ちが自分を変えていく。ネネトは、好きだったサンを殺したアグニをサンとして育てました。ユダから言われたのもあるでしょうが、そうすることで「サンと居る自分」になれる。
気持ちが、性格を変えていく。良くも悪くも、人間はそういうものですね。

ルナの「生きて」から始まったアグニの壮絶な人生。生きることにこんなに縛られ続け8巻も過ごした主人公、中々いないです。でも、最期はきっと幸せに死ねたはず。死ねたのかな。まあ死ねたことにしよう。

エレカシの「歴史」という曲に、「死に様こそが生き様だ」という歌詞があります。
この曲は森鴎外のことを書いた曲ですが、どう死ぬかということが、周りにとっては生き様と同じくらい印象に残ります。本人がどう思うかは別として、結末は過程よりも印象に残りやすいというのもあります。
アグニは死ぬことが出来ない人生。死に様を得られない人生がどれだけ不幸なことか。

まあ、個人的には死んだらもう終わりなので、残された人に不利益さえなければ死に様はどうでもいいのですが、エンターテインメントだったり、著名人だったり、自分が観る側に立ったときその人をイメージ付ける上では、この歌詞は非常に大きな意味を持ちます。

だからこそ、宇宙でユダと出会えた奇跡、共に眠れた奇跡はこれまでのアグニの人生に花を添えてくれたのかな、と思っています。

ちなみに話が逸れますが、ワンピースの6巻、ゾロ対ミホーク戦で、有名なゾロのセリフ「背中の傷は剣士の恥だ」と言うのは自らこの歌詞を体現しているようで、すごいなと思ったものです。

8巻だけでも、シーン一つずつ切り取ると、僕のような凡人には気の利いた感想も出てこない場面ばかりですが、漫画が好きでいろいろな漫画を読まれている方、ストーリーを深く読み込みたい方などには特にお勧めしたいと思います。少年漫画ではいつぶりだろうというくらいの、怪作に出会いました。