ファイアパンチ / 藤本タツキ 3巻 感想 【ネタバレあり】

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ドマを殺しに向かう、トガタとアグニ。復讐を終えればようやく死ねる、そう思いながら歩を進めるアグニ。
そこで、ベヘムドルグの牢に入れられる奴隷達と目が合う。

本当の自分はどんなヤツだったか、復讐は本当に自分が望むことなのか。痛みに抗うため、無理に復讐者を演じていたのではないか。本当は、悪をくじき、目の前の生を助けたい。それが本当の自分ではないか。

気付けば、牢をこじ開けていた。奴隷達を逃がしてしまい、トガタの予定は台無し。
それでも、アグニは自分の心に正直に動いた。

そしてアグニを殺すために集まった祝福者たちとの、肉弾戦が始まる。
戦いの最中、吹き飛ばされたアグニは建物に激突。炎は燃え移り、ベヘムドルグの街を燃やし尽くしてしまう。

祝福者との戦いに勝利したアグニ。そこへ現れたのはアグニの信者を自称する男。男はトガタや奴隷達を乗せ、ベヘムドルグから抜け出す。

残ったのは、アグニとユダ。教祖として生きながらえてきたユダも、もう全てを終わらせてしまいたいと嘆き、アグニに死を懇願する。
建物の全焼により、ドマも焼け死んだことがユダから告げられたアグニ。復讐の相手を失ったアグニは喪失感に見回れる。ユダはアグニの炎を纏い自殺を図るが、そこに「氷の魔女」を名乗る者が現れる。

全ての元凶は、この世界。世界を憎んだアグニ。そのアグニの目の前に、現れた元凶。アグニの新しい物語が始まる。

【感想】

今度はトガタの映画どこ行った…?という読者を振り回し続ける本作。

3巻は1巻同様、アグニの視点でアグニの生に対する物語が展開。半分ほどはバトル描写になり、能力者同士の非現実的なバトルは見物です。

映画のために復讐に燃える主人公を演じていたアグニ。ただこの巻で気付いたのは、復讐心そのものが痛みに抗うための自分の演技だったということ。このカラクリは絶妙で、唸ってしまいました。

そして、ユダに死ぬことを許されたとき、心の底から解放されたのでしょうね。

先日、安楽死の事件が話題になりましたが、その事件の経緯はどうであれ、「死んだ方がマシ」という場面に遭遇することも、もしかしたらあるかもしれません。
この漫画の絶望感は極端ですが、アグニにとっては「死」こそ救いで、そう考えるのは何ら不思議じゃない。これに異を唱えるなら、実際にアグニの立場になってみるくらいでないと道理が通らない。

それでも、他人は理不尽にも「生きて」と言ってしまうんですね。それは、「死んで欲しくない」というエゴ。もちろん、生きていつか幸せを掴んで欲しいという期待もあります。死んだら終わりですから。
でもやっぱり、死んで欲しくないから。
ユダがアグニに言った、アグニがユダを殺せない理由がまさにそう。生きていく糧がなくなってしまうから。

身近であればあるだけ、その思いは強い。でも、そんな時くらい、自己中心的な思いを吐き出してもいいんじゃないかと僕は思います。そして思いをぶつけ合えればいいんじゃないですかね。

3巻の最後は、2巻の氷河期設定をまたも覆す氷の魔女の登場。本物か偽物かは置いておいて、ことごとくミスリードを誘うこの作者さんは相当ねじ曲がった性格なのではないでしょうか。(褒めてます)

まだまだ予想だにしない展開となりそうです。