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【あらすじ・感想】
佐伯先生が開く絵画教室でバイトを始めた八虎ですが、癖のある子供達を相手に苦戦しっぱなし。
問題児の翔也を筆頭に、とにかく舐められっぱなしの八虎。
ある日翔也に、「ピカソを知らない」と煽られ、ムキになった八虎は橋田と共に美術館へピカソを観覧に行きます。
そこでピカソの凄さ、アートの奥深さを知ることになります。
橋田の博識ぶりは毎度驚かされますが、この若さでこの知識量と理解力、物腰の柔らかさ、どれを取っても超優秀だなあ…と改めて思い知らされますね。
対して八虎の人間くささ。ただムキになって調べにいくあたりの真面目さは尊敬します。
この性格だからこそ、自分や他人の心の動きを絶妙に察したり逆に悩んだり、さすが様々な人間関係や心の機微を描くブルーピリオドの主人公だなと。
ピカソの話であった映画の興行収入の話。まさに「売れる」ということの根本はこの通りだと個人的にも思っていて、本当に言語化の上手な著者さんです。
そして子供の描く絵に興味があるという橋田は、今回のピカソ巡りのお礼として、八虎の紹介で同じ絵画教室でバイトをすることに。
知識豊富で落ち着きのある橋田はすぐに馴染み、子供達や先生とも上手くコミュニケーションを取っていきます。
生徒の一人の美玖。色覚に軽度の障害を持つ彼女に対して思う八虎の純粋な疑問。
「色が分からない人に 色ってどう伝えたらいいんだ」という問い。
これに対しては佐伯先生が一つの答えを明示しますが、こういった細やかな問題をさらっと提示してはさらっとブルーピリオドなりの答えを描写する。
これが今作の醍醐味で、凄いところだなと毎回感心してます。
次は問題児の翔也の話へ。
八虎は翔也からは舐められていますが、ある日翔也が描いたメカの絵を見て、素直に良いと感心します。
自分の好きなものを自分の好きなように描く。それを実践してから少しずつ翔也は心を開いていきます。
しかし、それを周りの大人や環境が許さないことが、子供の時分には多々あります。
八虎が子供の頃に感じた、「美術を苦手になった理由」
美術に正解はないと言いながら、周りの大人や世間の評価に惑わされて自分の感性を否定されてしまう感覚。
それは当然、翔也や他の子達にも当てはまり、それを八虎はこの年になって改めて思い出します。
僕も美術の感性はなく、絵も描けないのでなんとなく苦手だと思っていますが、そもそも「感性」という言葉に縛られること自体が違うのだと認識させられます。自分が好きなら、それでいいのだと。
翔也と仲良くなり、同僚の目黒先生にも勧められた特撮を見て、八虎がドハマりするのもおもしろい。食わず嫌い良くない。
最後は小枝ちゃんという女の子の話。
絵以外にも多くの習い事をこなしている小枝ですが、真面目に何でも頑張る良い子。絵は特に好きで思い入れも深いです。
しかしその習い事の多さが徐々に負担になり、つい愚痴ってしまうことも。そんな小枝を橋田は気にかけています。
小枝の父親は善良な普通の父親。ただ、子供の気持ちに少しだけ寄り添えない、不器用で無自覚な面がありました。
悪気がない分かなり問題で、知らず知らずに小枝を傷つけてしまいます。習い事で上手く行かないと、何でも背負い込んでしまう小枝の性格上、余裕がなくなってきてストレスが溜まっていきます。
佐伯先生の企画で展覧会を開催することになり、子供達も各々作品を作り上げていきますが、小枝は少しずつそのプレッシャーに押しつぶされていきます。
そしてある日、それが爆発。
このシーンの小枝の描写は秀逸。悩みや葛藤が一気に溢れ出て泣き崩れる小枝の辛さが胸を打ちます。
また、それを見ている橋田の描写。これが素晴らしい。
飄々としていて一歩引いている橋田。子供が描く絵には興味があるものの、子供自身には関心はなくあまり突っ込みすぎないようにもしていましたが、小枝の感情を目の当たりにして自ら動き出すのが格好いい。
小枝に合作をしようと提案する橋田。
そこで橋田の絵に対する気持ちと、小枝へのリスペクトを語ります。子供相手でも対等に本気で接していることが分かります。
僕の中で橋田の株が一気に上がったシーン。元々出来たキャラでしたが、ある種、初めて人間味を感じた瞬間。格好いい。
その後の父親の登場で水を刺されますが、この時の感情むき出しの橋田は後にも先にももう見られないだろうなというくらいの迫力。
八虎がフォローに入るくらい、熱を持った橋田に何とも言えない気持ちになりますね…。
そのまま小枝は絵画教室を辞めてしまいますが、展覧会当日、橋田に挨拶に訪れます。
子供にはドライだった橋田もこれにはやられたようで、「先生にも向いてない」と呟き後にする姿は印象的。
優秀な橋田ですが、今回の絵画教室での出来事はこれまで得た経験とは違う貴重なものだったと思います。何でも出来そうな彼にスポットを当てたこの話は僕の中でも印象深く残りました。
絵画教室編は終わり。
二年になり藝大に戻りますが、八虎の前に現れたのは桑名。久しぶりの登場で巻またぎ。
相変わらずこの作品は人間関係や心の動きの描写がエグすぎるほど上手い。著者の視野の広さとその表現力には脱帽しっぱなしです。
本当は画像を載せすぎるのは良くないと思っているのですが、今回はかなり多くなってしまいました…。
くれぐれもこのブログで「読んだ気」には絶対にならないで欲しいです。まあ、そうはならないと思いますが、ブルーピリオドは1ページたりとも無駄がありませんので、しっかり1巻通して読んでこそ感じられることがあります。
もちろん僕の文章だけで凄さが伝え切れているとは思っていませんので、未読の方は是非読んでもらいたいです。おすすめ。
10月からアニメも始まるということで、そちらも楽しみですね。