潮が舞い子が舞い / 阿部共実 1巻 感想

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海辺の田舎町に暮らす高校生の日常を切り取った青春群像コメディ。

【感想】

「空が灰色だから」「ちーちゃんはちょっと足りない」の阿部共実さんの作品。すべて1話完結。登場人物は一貫していますが、割と多い。

団地に住む男子、水木と幼なじみの女子、百々瀬を中心に様々なクラスメイトとの会話劇が繰り広げられます。

素直になれない女子とあっけらかん男子の幼なじみ同士の絡みにほんの少しの恋愛要素があり、そこ以外は頭のおかしいクラスメイトの会話がマシンガンのごとく繰り出されます。

キャラクターが、と言うよりはこの作者さんの独白に近いようで、漫画の体を為していますが一見「漫画」である必然性もないように思えます。
それでも僕はこの作者さんを漫画で読みたい。ただ登場人物がなんてことない会話をしているというだけのことが、ちゃんと成立するコンテンツだなあと、改めて思わされます。

絵があって、表情があって、間があって。ただ吹き出しが並べられてるだけじゃなくて、この作者独特の雰囲気やテクニックは漫画じゃなければ感じられません。

とにかく登場人物のアクがすごいです。個性的とかではなく、「こういう考えの持ち主」というラベル付けがされた一登場人物、というイメージ。だから数日後には名前も思い出せないと思います。キャラクターというより、「アイデンティティ」を擬人化した、と言う方が近いような。

他人を見下しあまのじゃくな感性が染み着いている男の子の話、コミュ障で目立ちたくないのに屁理屈をこねくりすぎて逆に悪目立ちする外国人女子の話、ヤンキーの見た目だけど本当はみんなと仲良くしたい男の子の話、その他、1話ごとに頭の狂ったキャラばかりが出てくる出てくる。

ただ、どの話でも少しセンチメンタルな空気が漂っていて、ただ馬鹿話をしているだけというわけではないのが良いです。高校という舞台で、田舎町、団地というコミュニティの中で、一人一人の暮らしを描いている。
きっと、世の中にはここの登場人物のような感性を持っている人が沢山居て、でも実際はこの漫画のように全てをぶちまけることなんて出来ない。そんな心の闇のような、普通は隠しておくような意見や思想を垂れ流しまくっているのがこの作品。だから少し怖くもあり、確かにと思う部分もあり、リアルと虚構の狭間にいるような感覚。

しかし過去の著者作と比べるとダークな面は少し薄いので、まだ読みやすい方かなと思います。

お薦めするかと言われれば大声で薦めることは出来ませんが、いろんな漫画を読む方であれば、一読はした方がいいかと思います。
僕は阿部共実さんは好きですが、「好きな漫画家は阿部共実さんです」と言うと果たしてそれは…大丈夫か…?と憚られてしまうような、なんとも言い難い唯一無二の作者です。すごい人なのは間違いないので、読んだことのない方は是非。