マイ・ブロークン・マリコ / 平庫ワカ 感想

マイ・ブロークン・マリコ / 平庫ワカ 感想

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4.0

外回りで営業中の女性、シイノはテレビで友達の訃報を知る。その友達、マリコとは先週遊んだばかりだった。

自殺の素振りはなかった。突然の出来事にショックを受けるシイノは彼女のために何かしてやれないかと考える。

マリコは中学の頃から父親にDVを受け、高校では強姦、小学生の時以来、戻ってきた母親もまた出て行ってしまい全てマリコのせいだと押しつける。
自分がいけない、自分が悪いんだと思いこむ性格になってしまったマリコ。彼氏が出来れば同じように暴力を振るわれ、もうどうすればいいのかわからなくなってしまった。
そんなマリコが出会い、唯一心を許せる友達になれたのがシイノだった。

シイノは、マリコの父親が大々的にマリコを弔うことなどない、弔うことなど許されない、ならば私が…との思いで、遺骨を奪うことを決めた。

【感想】

突然訪れた友人の死から始まる、女性同士の結びつきを描いた物語。

主人公のシイノはガサツで口も悪いですが裏表のないすっきりとした性格で、
真反対のマリコから見るとおそらく羨ましく、信用できるからこその友人関係だったのだと思います。
シイノも一匹狼な自分の性格がある意味、孤独なマリコと共鳴できたのかなと。

そんな二人ですが、この話はマリコが死んだあとのもの。シイノが、友人の死に対してどう向き合い、どう整理を付けるのかというお話。

以下、少しネタバレあります。

シイノは、マリコにもっと頼られたかった。何故突然逝ってしまったのか、何故何も言ってくれなかったのか、それだけが悔しくて悲しくかった。でも、もう出来ることなんて限られています。
そもそも、普通ではないマリコの家庭。弔いの言葉をあれこれ並べるより先に、こんなにマリコを不幸にしたあの家にマリコの遺骨があるのが許せない、あんな父親の弔いの言葉なんて今更聞きたくもない、という思いがあったのでしょうね。

無理矢理遺骨を奪ったシーンではマリコの姿で叫ぶシイノが描かれます。裏表紙にある「魂の結びつき」をまさに体現しているシーンでした。
父親に散々な目に遭わされていたマリコも、反抗することなど出来ませんでした。何が正解で何が間違いなのか、自分の意見すらまともに持てずに流され生きて更に痛い目に遭う。
そんなマリコの心の叫びが死んでからシイノを通じて父親に伝わる、そのシーンの迫力は中々のものがありました。

しかし、しっかり仏壇を作っていて再婚している奥さんはしっかりした人で、父親も変わったのかなあと。ならばそれこそ、シイノに遺骨を奪われるのは罪滅ぼしだと思ってほしいくらいですね。してしまったことは消えないし、マリコももう戻らないのだから、父親本人がしたいように出来ると思ったらそれは大間違いです。

シイノの決断ですが、結局、葬式や墓などは、生きてる人たちの気持ちの整理とけじめのために行うもので、遺骨はまさにそのための大事な物。
シイノは友人の死を簡単には受け入れられず、自分のけじめのために遺骨を奪います。

突発的に自分の心が動かされたとき、どういう行動に出れば心を保てるのか。
シイノはこういった滅茶苦茶な行動力がありますが、そうでない人はマリコのようにリスカをしたり引きこもったり、それぞれがそれぞれのやり方で心の安定をはかります。

その方法に良いも悪いもなくて、結局は自分のため、自分がこの絶望的な状況でも生きるため選んだ手段なので、
マリコのメンヘラ的な性格も、シイノの猪突猛進型の性格も、どちらも美しいものだと個人的には思います。

ただそこに、別のこんな選択肢もあるんだと、それに気付かせてくれる物や人があると、人は良い意味で変われるのかなあと。この作品も、そういった意味で、意味のある作品なのではないかなあと思ったりもしました。

シイノが遺骨を持って駆け回る中でちょっとした人との関わりもあり、家に帰ってシイノが呟くように、生きてる側の生活は意志とは無関係に回ります。
これが現実ですが、この作品はこのバランスというか、心がざわざわしている時と心が落ち着いたときの描き方のバランスが上手いような気がします。家に着いたときの静な感じが良いですね。
ただ個人的には最後、あと数ページ欲しかったです。語りでも背景でも何でも、なんだか、もう少し落ち着いていたかった。

そして最後の最後は読者に委ねる終わり方となり、これに関しては人それぞれの形があると思うので明言は出来ません。マリコが、シイノを思ってさえいてくれれば、それで良いです。
こういった締め方は悪く転がることも多いですが、この作品に関しては良い雰囲気で終わっていて、しみじみとして良いですね。何でも結論を求めていると、せっかくの漫画の良さを消してしまいます。

全体的に読ませるスピード感もあり、落ち着きもあり、メリハリの付いた良作でした。
人間らしさが詰まっているので、感情移入出来る人と嫌悪感を抱く人と両極端になるかもしれませんね。漫画としてはお勧めです。

ちなみに最後に別の読切を一話収録しています。

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