可愛そうにね、元気くん / 古宮海 1巻 感想

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男子高校生の主人公、廣田は同じクラスの八千緑に好意を持っている。保健委員の廣田は、よく怪我をする八千緑を保健室に連れて行く。

好意を持っているが、しかしこの好意は誰にも言えない。ましてや、本人になど絶対に言えない。
廣田は、自身の描く同人誌の中で、八千緑を痛めつけていた。泣いて、苦しんで、怯えて、逃げて、絶望した時の八千緑に異常なまでに興奮する。可哀相であればあるほど魅力的で、可愛そうなのだと。
その特殊な性癖を押し込め廣田は、同人活動に励み、日々、八千緑を目で追いかけている。

ある日、締め切りに追われ学校で原稿を描いていた。下校途中、原稿が1枚足りないことに気付く。

慌てて取りに戻る廣田、しかし教室には八千緑が。動揺する廣田だが、八千緑はどうやら原稿には気付いていない様子で廣田を気遣う。
その場をやり過ごした廣田は一安心するが…。

【感想】

特殊な性癖を持つ主人公の葛藤や苦悩を描く、思春期の倒錯ラブストーリー。

主人公の妄想の中ですが、暴力的な描写も多々あります。誰しもきっと変わった趣味や性癖と言うのはあるかもしれませんが、主人公の場合はそれがリョナだったということ。

リョナに関しては特殊でありつつもニッチな需要はあって、同人界隈ではそう珍しくもなく見かけるものではありますが、主人公の場合明らかな対象が居て、好意を持ちつつペンを進めると言うなかなかの強者。
ある意味そういった対象を身近に見つけられたというのは幸せとでも言うのでしょうか…。

性癖とは別に、恋愛における確かな好意もあるようで、そこで葛藤する主人公を素晴らしく描けています。
性癖があってこその好きなのか、好きな子を自分の性癖に当てはめたいのか。初めは前者だったかもしれませんが、結局好きになるきっかけは元を正せばそういった衝動から起こることも多いので、主人公の気持ちは尊重出来ます。

悩んでいるだけあり、主人公の性格はむしろ良い方で、人付き合いもそこそこ、友達もいます。八千緑さんの前ではテンパりますが、好きな子の前なのでむしろ普通の反応。まさか性癖を現実にするなどはなさそうな、分別は付いているキャラクターに見えます。

そんな彼の前に新たな変態が現れ彼を追いつめ、更には…という変態に変態が重なり、登場人物の関係性が異様です。
リアルな思春期の不安定さと、フィクション感のある極端さがいいバランスで面白いです。

読んでいると不穏な気持ちにさせられますが、問題作であることは間違いないと思います。