左手のための二重奏 / 松岡健太 1巻 感想 【ネタバレあり】

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荒んだ家庭で生きてきた的場周介。喧嘩が強く暴力沙汰も絶えず世間からは問題児として扱われている。

ある日、手を焼いてくれる先生に連れられピアノの演奏を聴きに体育館へ。

弾くのは校内の有名人。ピアノコンクールでは優勝を総なめ、日本で一番注目されている中学生、弓月灯という女の子。周介はただただ彼女の演奏を聴いていた。

帰りの電車内、考え事をして乗り過ごしてしまった周介だったが、同じく弓月灯も同じ電車で乗り過ごしてしまっていた。

終電を逃した二人はどうにか家に帰ることに。自転車を借り、二人は帰路に付きます。

周介の悪名は灯にまで届いており、演奏会に来てくれていたことも気付いていました。無愛想だった周介にもう一度演奏を聴かせたいと思い、灯は明日のコンクールに周介を招待します。

親から放られていて何も好きなものなどない周介でしたが、親のレールに敷かれながらも「好きだからピアノを弾く」と笑顔で言う灯に心が揺れます。

今まで何にも興味を示さなかった周介でしたが、灯の眩しい生き方に絆され、コンクールを見に行くことに決めます。

夢を語る灯。それを見守る周介。帰り道を歩く二人に思いも寄らない運命が待ち受けてしまいます。

【感想】

天才ピアニストと不良男との、ピアノを通じた物語。

本冊のあらすじにもあるので書いてしまいますが、灯はコンクールの前日、周介の目の前で事故で亡くなります。

周介も重傷を負いましたが一命は取り留めました。それでも周りからのバッシングが酷いもので、夜中に灯を連れ出していたという誤報が飛び回り、周介も罪悪感に苛まれ自ら命を絶とうとしたとき、左手が勝手に動き周介を助けました。

なんと、灯の意志が周介の左手に宿ってしまう、というファンタジックな展開。ここから物語は始まります。

左手ですが、周介には声も聞こえており、会話が出来ます。不良の手に女の子なんて「美鳥の日々」を思い出してしまいましたが、今作はラブコメ要素はなく「左手だけピアノが滅茶滅茶に上手い」という面白い設定。出来る影が付くというのは「ヒカルの碁」のようなイメージでしょうか。

しかし周介自身は音楽には疎く、ピアノなんて当然弾けない。なので右手が左手に追いつく必要があります。ただ耳は良く、本人は気付いてなさそうですが音感は並外れたものを持っており、素質はあるという設定。

灯の父親のバックアップのもと、素人同然の状態から灯の左手と共にピアノに向き合っていきます。

この、父親が付いてくれるというのが個人的には救われたというか…。娘が死んだ、その間接的な原因の不良相手なんて絶対に邪険にする立場のはずなのに、冷静でいてくれている。

灯を左手に感じた、という理由がありますが、そういう流れにしてくれたことが素直に嬉しい。

周介も実際、不良と言いつつも人情味があり、今まで夢中になれるものがなかっただけで、こうやって歯車がハマればとことん動ける男でした。

死んでしまった灯のためにも、なんとかピアノを弾けるようになりたいと頑張る周介。応援したくなります。

ちなみに、父親から恨まれることはありませんでしたが、幼なじみからは超絶恨まれ、その幼なじみとの話に流れていきます。

音楽を題材にしつつも、演奏の表現はオーバー過ぎずシンプル。それよりもキャラ同士の会話や心理的な面がよく描かれています。
設定はファンタジーですが、丁寧な作りでそのファンタジーさもあまり気になりません。素直に面白い作品でした。

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