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とある生物科学研究所にテロリストが襲いかかる。テロリストは「動物解放同盟(ALA)」と名乗り動物を保護する活動をしている。
動物実験を繰り返す研究所で動物の救助のために行われたテロ行為。その研究所で引き上げた一匹のチンパンジー。出産間近で危険な状態だった。
病院へ運びチンパンジーは一命を取り留め、無事子供を出産。しかし驚くべきことに、その子供は人間とチンパンジーとの間で生まれた「ヒューマンジー」だった。
15年後、ヒューマンジーのチャーリーは、チンパンジー研究の権威であるスタイン博士とその妻が引き取り、三人で穏やかに暮らしている。今年から、チャーリーは高校に通うことになっていた。
通い始めた高校で、頭脳明晰だが陰キャと揶揄されるルーシーと出会い、ルーシーはチャーリーに興味を持つ。チャーリー特有の物の考え方はクラスメイトから驚きと畏怖を買い、その存在は浮いていたがルーシーだけはチャーリーに近付いていた。
ある店で爆発テロが起こる。15年前にチャーリーの母を解放したALAの仕業。人間だけを特別視せず、全ての動物を平等に扱う世界を目指す。そのために、動物を不当に扱う人間に鉄槌を下すためその存在を世に知らしめている。
そのALAは、チャーリーをこの戦争に引き入れることを計画していた。
【感想】
半分ヒトで半分チンパンジーのチャーリーを主軸に、平等とは何か、差別とは何かと言った話にフォーカスした物語。これは…深く難しい、でもエンタメ的にはかなり面白い。
チャーリーは、メスのチンパンジーから生まれ、父親は人間。その父親は生物学の博士ですが、現在は行方不明。育ての親は別の人間です。
言葉は普通に話せて、二足歩行ですが見た目はチンパンジーが混ざっています。
特筆すべきは、チャーリーの思考。クラスメイトからヴィーガン(動物の搾取を極力しないという考え方)であることをからかわれた際の返しは見事。
チャーリーの「平等」こそ理屈的には正しいはずが、人間にとっては怖く感じるということがいかに人間が「人間」に重きを置いているという証明になっていますね。これは、ここまで繁栄して地球上を事実上支配している種だからこその驕りがあるのだろうかと、一人の人間としては考えてしまった次第です。これは…仕方ないんじゃないのかなあと思いつつ、それが正しいかどうかは自分にも分かりません。
確かにヒトは、動物を殺して生きています。肉も食べるし、衣服は動物の皮ですし、正直そこを配慮してまで生活するというのは少数派。その少数派が声を上げているのが今回のテロ事件です。
全ての動物を平等に扱うために、それを分からせるためには多少の犠牲はつきものだという理念の元、「多少の犠牲」として人間を殺すことも厭わないその活動が徐々に世間から危険視されている状況。そんな中でチャーリーは、この団体に狙われます。
チャーリーと仲良くしているルーシーという女の子。この子は周りの人たちからは変人扱いをされてしまいますが、しっかりと自分を持っている素直な女の子。チャーリーに対してもその独特な思考を「面白い」と思える数少ないチャーリーの理解者。
ルーシーがいることで、チャーリーの行動の歯車が回り出しストーリーもどんどん動く、とても重要なキャラ。この作品では一番見ていて安心する性格です。
差別とは、平等とは、と言った話をメインに据えつつ、テロに狙われるチャーリー一家の緊迫した場面は見応えがありサスペンス的な面白さもあり、ラストはかなり絶望的な引きで巻またぎとなり、続きが気になります。1巻としてはかなり面白かった。
「考えさせられる」とか「話が深い」とかいう感想は何だか薄っぺらくてあれなんですが、実際考えてしまうものだなと、この作品を読んで思いました。チャーリーの思考を物語にどんどん組み込んで動かしてもらいたい。そうやって生まれるストーリーには、とても興味があります。