中学一年の土屋悠人は、出来の良い兄と顔の良い弟に挟まれ、努力して入った難関校では落ちこぼれコース、俺の人生は終わったと絶望にふけっていた。
ある日、プロバレリーナの山本琥珀が怪我による引退を発表した。琥珀の住まいは悠人と同じマンション。部屋は隣同士だった。しばらく出ていた琥珀が部屋に戻ると聞いて、「俺より終わってそうなヤツが見たい」と悠人は隣へ訪問する。
しかし意外にもへこんでいなかった琥珀。悠人が知っている昔の琥珀よりも明るくあっけらかんで、逆にダメージを受けてしまう。今までバレエしかしてこなかった琥珀は常識から少しズレており、悠人は琥珀の危うさから少しずつ気をかけるようになる。
琥珀は母親のためにバレエを続けていた。先日母親は病気で亡くなり、モチベーションが維持できなくなってしまったため辞めたのだった。
バレエ一辺倒だった琥珀は第二の人生を考える。そこで、昔流行した「地図にない場所」を探しに行こうと悠人に提案をする。
その場所は「イズコ」と呼ばれ、半ば都市伝説として忘れられていたものだった。
【感想】
兄と弟をコンプレックスに感じている中学一年の悠人と、プロバレリーナとして人生を捧げてきた琥珀の自分探しの旅。
悠人はこれまで無理して自分を作ってきて、小学生の間は何とかなったものの中学に入りついにオーバーしてしまいます。真面目で優しい性格が災いし、自分以上の自分を作ってしまった。
確かにこの時分は自分の立ち位置や能力の判別は本当に難しい。小学生までは何とかなるんですよね。
琥珀も実は悠人と同じで、プロバレリーナのトップとして努力してきた琥珀ですが、同じように実は自分以上の自分を演じてきただけ。トップまで行けたことは才能だとしても、全てをなげうちバレエに人生を捧げてきた琥珀にとってそれは「天才」や「才能」ではなく、天才ではなかったからここまで努力をした、そのモチベーションが母親だったから、モチベーションを失ってまで続けられる甘い世界ではないということは琥珀が一番わかっていました。
どこか共通点がある悠人と琥珀。そんな二人が都市伝説のような場所を探しに行く物語。
琥珀も悠人も、誰かのために自分を演じていたところがあって、「自分の好きなように生きる」というのが作品のテーマのような気もします。そうなるための旅、といいますか。
悠人の幼なじみ?の女の子も登場し、この子は逆に、やりたいことがあるのに親が障害になっているというパターン。悠人や琥珀とは対照的な、自分を見つけてる側。
個人的に印象に残ったのは、琥珀の箱入り具合に対する悠人の反応。常識がなく一人では全然ダメな彼女に対して、悠人が心配をする流れ。常識とは何なんだろうと、そこに気付けた悠人に拍手をあげたい。
二人とも年齢は違えど気持ちは近い。少し達観している子供の悠人と、自由奔放な大人の琥珀。このあべこべ具合がいい感じ。
幼なじみの女の子も含め、三人が情報を共有しあって地図にない場所を探す。具体的なゴールがない中で、道中どんな発見や気付きがあるのか、続きも楽しみです。