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先住民が近づいてきたところから始まります。
言葉が通じない同士ですが、先住民とトルフィンは「会話」を行います。先住民側に敵対意識はないので良かった。
先住民を「ウーヌゥ人」と理解し、トルフィン達はお礼の品を受け取ります。
両部族の関係は良好で、お互い持ちつ持たれつの関係性のまま順調に土地の開拓を進めていくのでした。
ウーヌゥ人のミスグェゲブージュ。未来を見る儀式が出来るという彼はトルフィン達との関わりを見極めるために命を張って儀式を行うと言います。
一緒に居るニスカワジージュという女の子。彼女もトルフィン達との関わりになんとなくの不安を抱えています。
まあそれはそうですよね、いきなり知らない人種の人たちが押し掛けてきて自分たちの土地を開拓していくのですから。先住民とトルフィン達は絶対に仲良くしなくてはならないわけで、ある意味最大の難関ではないでしょうか。
カルリが友達と喧嘩をするエピソード。「ときがかいけつしてくれるから!」とどこで覚えたかわからない可愛い主張をしています。
トルフィンに、喧嘩をしたことがある?と尋ねるカルリ。トルフィンは過去にしてきた過ちの数々を、時は解決してくれないと悟っています。謝りたいけどどんなに謝っても赦してはくれないだろうと。トルフィンは一生この業を抱えていく覚悟です。
熊が出てきたため狩りに出る男達。ヒルドが前に出て、トルフィンもヒルドに全てを任せます。
ヒルドの恨みは、時間で解決するようなものじゃない。それをトルフィン達も、読者もみんな知っていますが、カルリとヒルドの会話のシーンは純粋で残酷。「ときがきたらとーちゃんのことゆるしてね?」と、これはヒルドにとっては中々堪えるワンシーン。
少しずつトルフィンのことを理解していっているのは間違いないですが、葛藤はまだ心の中で疼いています。ヒルドにスポットが当てられたこの話は、ラストのとあるシーンに繋がっていきます。
熊を追って休んでいたヒルドに熊の亡霊が現れます。
熊の縄張りを奪ってしまい、自分たちに非がある。冬ごもりを見届けられたのでもう何もしないと言うヒルド。
昔、熊に大切な人を殺されてから熊は憎いのだろうと問われ、「もう昔のことです」と返します。
この一言は、ヒルドが絶対に言わない、言えない一言だったはず。
トルフィン達と行動を共にして、時間や周りの人が少しずつヒルドを動かしていた、そして後の伏線ともなる印象深いシーンです。
未来予知の儀式を行っている先住民のミスグェゲブージュ。見えた未来では悲惨な戦争が行われています。様々な生き物が死に、ウーヌゥ人は絶え、ノルド人が栄えていく。その悍ましさに彼はトルフィン達の驚異を感じます。
先の戦いでヨーム戦士団を解散させたトルフィン。そこで行く宛を失ったヴァルガルという男の話。
そこで話されるのはヴァルハラの存在について。荒家業をしていたヴァルガルを捕まえたクヌートらとトルフィン。死に場所を探していたというヴァルガルは早くヴァルハラに送ってくれと頼みますが、トルフィンはヴァルハラの存在を一蹴。「来たるべきラグナロクのために」というヴァルガルにラグナロクなんて本当に来るのか?と。
よくわからない予言よりも、自分の意志で決断していこうと言うトルフィン。船乗りが欲しかったトルフィンはヴァルガル達に選択を求めます。
そしてトルフィン達と行動を共にすることにしたヴァルガルでした。
何を信じるかは人それぞれですが、この時代の宗教観に一石を投じるトルフィンの論説はすばらしい。生きる道があるなら死ぬよりはいいだろうと、ましてやヴァルハラなんてよくわからないもののために死ぬなよと、言ってやれるトルフィンの大物加減。
今作は本当、色んな偏りを優しい形で真っ直ぐにしてくれる。些細な1エピソードですが、良いお話です。
そしてこの26巻で最注目のエピソード。ヒルドが麦の処理を自動化できる仕掛けを披露するところから。
人力では大変な工程をすっ飛ばす革命的な機械。ヒルドは周りから煽てられて照れていますが、こんな馴染んだヒルドを見るのは初めて。
イーヴァル達がトルフィンを認め始める描写があり、先住民と楽しく遊ぶ仲間達も描かれ、麦から出来たグズリとヒルドお手製のパンを受け取るトルフィン。
ここまで来るのに長かったと、そう呟き感傷に浸るトルフィンとエイナル。しみじみしますね。間にアルネイズの像が描かれるのもじんわり来てしまう。
そして大ニュース。グズリのお腹には赤ちゃんが。大変なことはありながらも、良いニュースもどんどん舞い込んできます。
そんなトルフィンを見ていたヒルド。パンを頬張りながら思います。
「もう無理だな これ以上はもう… 怒りに縋りつくのは 無理だ」
そしてヒルドはトルフィンを赦します。
このシーンはヴィンランド・サガという作品の中では相当に重要なシーン。そもそもトルフィンが父親の敵を討つところから物語が始まり、奴隷を経て今の落ち着いたトルフィンになってからも過去の過ちに縛り続けられる描写が多々あり、「復讐」「過去の過ち」「贖罪」そういったテーマが今作の根幹としてずっとありました。
それがキャラクターとして具現化したような存在、それがヒルドだったわけで、ヒルドと出会った16巻以降、殺意を押し殺しながら監視を続けていたヒルドを読者はずっと見てきました。
そんなヒルドが、トルフィンを赦すシーン。これはもう心が動かないわけはなくて、ちょっと泣きそうになりました。
中盤で、あれヒルドさん心の移り変わりがあるのでは…?と思う熊のシーンがありましたが、このシーンに向けた伏線だったのですね。
この巻は少し地味かもと読みながら思っていたら、最後の最後にやられました。絵も綺麗で、アングルも素晴らしい。セリフ一つ一つが胸を打ちます。いやー、驚きと感動が一気に押し寄せて何とも言えない気分です。
一部キャプチャしていますが、是非通して読んでください。
土地開拓はまだ始まったばかりですが、一つの大きな区切りがついた巻でした。