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小学四年の藤野は毎週の学級新聞に四コマを載せている。
漫画を褒められ自信過剰な藤野だったが、ある日隣のクラスの不登校生徒、京本の四コマを読んでその絵のうまさに驚愕する。
最初は対抗意識を燃やしていたが、埋まらない差に絶望し漫画をやめてしまった。
ある時、先生に頼まれ京本の家を訪れた藤野。用事を済ませその場を後にしようとすると、京本が出てきた。学級新聞の四コマを読んで以来、藤野のファンだという。
京本に影響されまた漫画を描き始めた藤野。そしていつしかタッグを組み、二人は漫画家を目指すようになる。
【感想】
「ファイアパンチ」「チェーンソーマン」の著者、藤本タツキさんの新作読み切り。1話としてのページ数はかなり多いですが、読み切り一本で単行本とは中々贅沢。しかしその決断に間違いはない、と思わせる問題作。
自信家な藤野と引きこもりの京本。漫画が二人を引き合わせ、二人の運命を狂わせていく青春もの。
井の中の蛙を感じた藤野が絵を猛練習し、周りの友達との歩調が合わなくなっていく様子や、それでも敵わない相手に絶望し諦める展開は空しくもリアル。
初めはもてはやされていた藤野も高学年になるにつれ、人間関係という現実がのしかかり、それでも自分の衝動を優先して漫画を描くことに少し驚きました。
藤野がやる気になる辺りは、自信家でありながらも負けず嫌いで努力を惜しまない藤野の長所が出ています。
そんな漫画に重きを置く藤野が出会った京本という存在。自分を肯定してくれる存在に心救われながら、京本も藤野に助けられて生きている。そんな関係の二人が漫画家を目指しますが、あるところで別れが…。
後半の流れはあの京アニの事件を想起させられ、世間でも少し話題になっていましたが、ここでその話題を持ち出すのはナンセンスというか、あの事件が余りに痛ましかったために仕方ないとは思いますが、今作とは別個に考えないと今作の良さが半減してしまいます。
まあ、あえてこういった描写にしたのは間違いなく意識しているでしょうが、本筋とは関係ない部分なので深くツッコむところではないでしょうというのが個人的な意見。著者のやりきれない思いがこの描写に繋がったのかな、と思います。
そして後半は少しファンタジックな描写。
藤野は京本と出会ってしまったことを後悔しているので、「こうだったら良かった」という願いを無意識化のイメージとして映したものだと理解しています。
現実世界は当然京本は死んでますので、藤野のビリビリに破いた漫画の一コマが京本の部屋に入り、京本の四コマが風に乗って藤野の元に来る、というのが現実の世界線。その間の描写はパラレルワールドというかおまけみたいなものと考えて良さそうです。こういった描写は、理屈で考えようとするとちんぷんかんぷんになってしまいますが、意外と単純な話だと思います。
結局は藤野が立ち直りまた漫画に向き合うまでのストーリー。そのためのきっかけが京本の部屋にあって、これまでの思い出や藤野の作品に対する京本への思いが、藤野を立ち直らせるきっかけになったわけですね。
京本の、藤野の作品への思いを感じて再び描き始めるというあのラストの流れは鳥肌もの。セリフを描かない表現のお手本のようなシーンが今作は何ヶ所もありますが、ラストは特に痺れます。
話題性のある作者の読み切り。ポテンシャルが正直少年漫画の枠を飛び越えています。ジャンプ+であれば、週刊よりも自由に出来そうだなという期待もあります。
読み切り含め、新作が出る度に間違いなく期待できる、という確信を持てた一冊となりました。