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合唱部部長の男子中学生、聡実。最後の大会である合唱コンクール中、誰かに見られているような気配を感じていた。
大会が終わると一人の男から声を掛けられる。カラオケ行こ!と…。
その男はヤクザだった。近々、組でカラオケ大会があるらしく、そこでは組長が一人一人カラオケの出来を審査する。一番下手だった者には組長直々に刺青を彫るという。
刺青素人の組長が掘る刺青は、相当痛いしセンスもない。そんな刺青を絶対に掘られたくないヤクザの男、狂児は合唱コンクールで歌の上手かった聡美に声を掛けた。歌を教えてもらうために。
ヤクザに歌を教えることになってしまった聡実。普通の中学生とヤクザとのカラオケ通いが始まる。
【感想】
あり得ないシチュエーションとギャップで読ませるコメディ。中学生がヤクザにカラオケ指導する漫画。なんだそれ…。
表紙とタイトルでは正直どんな漫画か想像が付きませんでしたが、なるほど…。前提がまず面白いです。
間が独特でセリフにキレがあり、すらすらと読めて、かつ、くすっとさせられるシーンも多い。ビームコミックスということで、数多いる同レーベルの変な作家さんの一人として見事に君臨していますね。
既に単発で2冊出している作者さん。話題になっているとは知りつつ未読ですが、どこかで読めればと…。
内容について、終始怯えている聡実ですが、どこか憎めないヤクザの狂児に少しずつ気持ちが揺れていって、後半はそれが爆発する感じ。オチもついて、ただの良い話っぽくも終わらず。
それでもラストは少ししんみりさせてくれました。この二人の不思議な関係は、何とも形容しがたい。恋愛でも友情でもない、師弟関係でもさほどない、でもちょっと気になる。ちょっとのはずなのに、滅茶苦茶大胆な行動をするくらい、心を動かされる。聡実もたぶん、自分がよくわからなくなっているのでは。
声変わりの時期、ということが作中では描かれ、合唱に賭けている男の子にとって声変わりというのは超重要問題。そんなナイーブな時期の男の子をヤクザと絡ませながら上手く描いています。
精神的に不安定になりがちなタイミングで、こんな変な出来事が起こって普通でいられるわけないって…聡実はふにゃふにゃしているようで、かなり立派。
描き下ろしでは狂児を掘り下げてくれました。元々は前編、後編を同人誌で発表していたようで、単行本発刊に当たってのページ数の補填かな、とも思いますが、この描き下ろしは正解。本編とはあくまで別、でも確かに見たかった内容。面白い。
この作者さんは既に一つの世界観を構築していますね。おそらく、何を出しても面白いのでは。長編より短編が向いていると思います。何にせよ、おすすめです。