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「ファイアパンチを殺して」
そう願われるアグニは自死を繰り返す。己への殺意が、自分自身を苦しめ続ける。
しかし、死を渇望するアグニに、記憶を失ったユダは生きてと言う。ただ、生きてほしいから。
自分が自分でなくなる感覚を感じながら、アグニは生き続け、ドマの教え子たちとユダとの生活を始めていつしか10年が経っていた。
教え子の一人、テナには子供が産まれ、再生の遅かった右腕はいまや元通り。しかし10年経った今もテナの「ファイアパンチを殺して欲しい」という願いは消えていなかった。
一方、ベヘムドルグではしばらく音沙汰のなかったサンが、アグニ教の教祖として活動をしていた。
ファイアパンチを批判する者を罰し、制裁を加えるサン。アグニに憧れていた純粋だった少年は、盲信的で狂気的なアグニ信者としてアグニ教のトップに立っていた。
サン、氷の魔女、ジャックの三人は行動を共にし、ユダの奪還を計画している。寒さが酷くなってきた今、ユダの力で再び世界を暖かくする計画。
ユダとアグニの所在は把握している三人だが、サンはアグニを思い、ユダの奪還には前向きになれずにいた。
ネネトもまた、サンと行動を共にしていた。ネネトは単独でアグニの元へ向かい、兵がユダを奪いにくること、犠牲を出したくなければユダを渡して欲しいことを伝える。
アグニは葛藤し、ユダに心を預ける。
そこへ、件の兵が襲撃にきてしまう。アグニ教として活動していた親指を硬質化させる仮面の男を筆頭に、アグニ達に襲いかかり、建物は全壊。
激闘の末、アグニが勝利する。
とどめを刺そうとしたその時、テナがその拳を止めに入る。テナは、10年共に暮らしたアグニを家族同然に思っていた。
アグニとユダの正体に感づいてもなお、アグニの幸せを願うテナ。アグニは、ついに自分がファイアパンチであることを明かした。
独白の末、勢い余り手を出してしまったアグニに、テナの娘であるイアが自らの祝福である炎を放つ。その炎は、ドマと同じ「消えない炎」だった。
再び炎を纏いファイアパンチとなったアグニは、テナ達のもとから離れ歩き出す。
一方、ユダの帰還を待つ氷の魔女達。しかし、サンだけはユダを気にも留めていない。アグニだけを心配し、アグニだけを信仰している。
ジャックと氷の魔女の、アグニへの信仰心を疑ったサンは二人を殺しアグニ教の見せしめとした。
【感想】
急に10年が経ち、6巻での急展開に更に拍車をかける展開。再生の能力は衰えつつもまだ並の祝福者ではありませんでした。
しかし…アグニはどんどんヒトとしておかしくなっていきます。1巻ではあんなに妹思いで純粋で、復讐心も言ってしまえば純粋な心がストレートに働いた結果。
それが今や、ねじ曲がりすぎて何周もしてしまってわけがわからなくなっていますね。復讐する側だったはずが復讐される側になり、熱さという痛みから解放されてから、より「死にたい」という思いが強くなってます。
ここまで、一人のヒトが変化して追いつめられ這い上がってまた追いつめられを繰り返す…こんな境遇、少年漫画の主人公には中々いないのではないでしょうか…。
それでもようやく落ち着いてきた…というところでのトラブル。本当にツいてない。テナたちを選ぶか、ユダを選ぶか、苦悩するアグニからはまだヒトの匂いがしました。
しかし、兵に襲われた際の、仮面?の男との戦いはおぞましいですね。ここではアグニの、戦いに取り憑かれた狂気さが全面に出ています。今回は自分の大切な人を守るために戦ったはず。それでもアグニはきっと、そんな自分を一生許せないでしょうね。
そしてまさかの火だるま逆戻り。また、孤独に逆戻り。ユダを奪われたアグニの、次の行動は次巻で。
しかしこの巻はアグニ以上に、久しぶりの登場のサンに驚かされた巻です。あんなにかわいかったのに…シンプルに残念…。
完全に頭がおかしくなってしまっていますね…宗教というのはこういった極端さが表れると途端にヤバイ雰囲気を醸し出します。
電気の祝福もめちゃくちゃ使いこなせるようになっていて、今となっては光の速度でキックを打てる程に。こんなのサンじゃない…。
次巻が最終巻。アグニとサンの邂逅が最終巻でどれだけの見せ場となるのでしょう。
そして、世界の行方、ユダの存在、まだまだ続けられそうですが…なんとなく、ふわっと終わりそうな気もしてます。でも、この作品はそれでも許せそうな気もしてます。いずれにせよ、楽しみなことに変わりはないですね。