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愛する娘が殺された。ストーカーの被害届も出していたが、止められなかった。
父一人子一人の家庭。絶望する父親。犯人が捕まっても、死刑になっても、もう娘は戻らない。それどころか、現代の法では人一人殺しただけでは死刑にもならない可能性もある。
傷心の父親の前に、突如一人の少女が現れる。少女は自身を「改変者」と名乗り、世界を変える力を持っているという。少女は父親の目の前で、世界を改変して見せた。その世界とは、本来あるべき因果応報の世界。
殺人を犯した者を殺せば、殺された被害者が生き返るという世界だった。
父親は殺人犯を殺すことを決意。周囲の目も気にすることなく、父親はやってのけた。そして、娘は生き返った。
あり得ない事象に困惑する世間。ニュースやワイドショーはこの話題で持ちきりとなり、殺人を犯したこの父親の裁き方にも注目が集まる。
改変された世界で、様々なパターンで殺人と蘇りを軸にした話が展開されるオムニバス形式の物語。
【感想】
なんだか、これまた凄い作品が産まれたな…という第一印象。鬼頭莫宏さんということで一定の期待はしつつも、それを軽く越えてきました。
作画は別のかた。かわいらしい表紙の女の子が、改変者。暗いはずの作品の雰囲気を絶妙なバランスにさせるこのビジュアルとキャラクター。上手です。
殺人を犯した人間を殺すと、殺された人間が生き返るという世界。自然死や自殺はだめで、あくまで人の手で「殺す」ことが条件。
つまり、大切な人を生き返らせるために自分が殺人犯となると、自分が誰かに殺された場合、自分の殺した殺人犯がまた生き返る。こういったジレンマが発生します。
最初のエピソードはここまで。言わば導入で、本題はこの改変された世界での様々なパターンでの事件や出来事。
改変された世界では新たなルールが作られます。蘇柱執行法と名付けられ、それは、疑わしきは罰せよのルール。
殺人が起きたときの犯人Aの流れとして、
①犯人Aは死刑執行者Bによって死刑にされ、まずは被害者を生き返らせる。
↓
②執行者Bを執行者Cが死刑にして、犯人Aを生き返らせる。
↓
③その後、裁判をし犯人Aが有罪となれば死刑執行者となり、執行者Aは、執行者Dを死刑にする。
↓
④その後、執行者Aは犯人Eを死刑にし、犯人Eに殺された被害者を生き返らせる。
↓
⑤執行者Aは執行者Fに死刑にされる。
↓
⑥執行者Fは犯人Gを死刑にして、被害者を生き返らせる。
↓
⑦執行者Hは執行者Fを死刑にし、執行者Aは蘇る。
と言った、めちゃくちゃ分かりづらいルール。作中では女の子と図によってしっかり説明されていますが、それでもややこしい。というよりも僕の頭ではよくわからない。
余談というか疑問なのですが、下記のページ、
この、真ん中右側の「執行者き」の部分、自分の理解ではここはどうしても「執行者え」になるのですが、何故「き」になるのか何度読んでも分かりません。誰か教えて頭の良い人…。
まあこれは自分の脳みその問題なので置いておいて、このややこしいルールが考えられただけでも感心してしまいます。よく作ってますね…。
この蘇柱法、死刑にして被害者が生き返ったらそれは殺人の証拠になるので、冤罪を防ぐというメリットもあるという中々の仕組み。と言ってももし冤罪だとしても一回殺してしまいますけど。あと、共犯がいる場合は共犯も同時に殺す必要があるらしく、いろいろ引っかかってしまいますが。
人権的にまずい部分もありつつ、とりあえず被害者を生き返らせることを最優先にした法律。まあ、あながち間違ってはいないと思います。一番不幸なのは被害者ですからね。
この法律は、最終的には殺人犯も生き返るルールです。そのサイクルで成り立つ法律。これについて作中では、改変前も後も、被害者が不安を抱えながら生活しているという点は同じ事だ、と言及されています。この解決方法は今のところはない、と。
後半のエピソード、一人の殺人犯が罪を背負い、出来る償いをしようとします。こういった犯人も問答無用で生きる価値などないのかどうか。個人的には、取り返しの付かないことをしてしまったのなら、自分が取り返しのつかない事態になっても致し方ないでしょうという考えですが、様々な意見がありそうですね。
とあるエピソードでは、死刑反対を唱える弁護士を翻意させようと、弁護士の家族を殺す団体が現れます。後でちゃんと生き返らせるからいいだろう、と弁護士に大切な人を失う悲しみを味わわせるために。
最後のエピソードでは、これまた一捻りしたこの世界ならではの短編。これで終わらせたことで作品の雰囲気が良い意味でがらっと変わり、傑作感が非常に増しました。
改変された世界で起こり得る、練るに練られた物語がしっかり描かれています。
この作品のテーマは「因果応報」だと思いますが、事件を扱ったエピソードから最後のエピソードに流れ、不思議な展開になりそうな予感で着地点が全くわかりません。
ただの救済漫画ではない、既に傑作のオーラを漂わせている1巻でした。