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八虎は久しぶりに桑名さんに遭遇。桑名さんは彫刻科に合格したようでした。
7巻で彫刻科への転科を希望して頑張っていましたが、受かったんですね、これは嬉しい。八虎も嬉しそう。
八虎たちは2年に上がり担任が変更。新しく犬飼教授が担任となります。
一人オーラが違った教授がいましたね…担任になるとは。槻木先生は腰が悪くて外れ、猫屋敷先生は大ききプロジェクトを抱えているため外れ…廬生先生は引き続き。
犬飼先生は芸大の副学長だそうで、実績も経験も十分、大学ではそれなりの権威を持つ人。生徒たちも若干臆し気味。問題はどういった課題が出されるかということ。
最初の課題は「500枚ドローイング」。期限は二週間。そもそも終わらせることすら大変な量ですが、何かしらのコンセプトに則ってどう描いていけばいいか、と八虎は悩みに悩みます。
そもそもドローイングって普通の絵描きと何が違うの、と思いましたがそこは流石な今作、ちゃんと説明してくれます。
八雲の説明でした。チャラくてぶっきらぼうな感じはしますが、絵に対する博識ぶりは凄い。要点をまとめてわかりやすく説明できるあたり地の頭の良さがわかります。
ドローイングについてはこの中では一番「自分主体なやり方」だという八雲。まあそれが一番難しいのでは、とも思いますが数が数なのでやり方を限定されれば期限に間に合わない、という難儀な課題。それでも八雲はこの課題はウォーミングアップだと感じています。それほど、犬飼先生のヤバさを懸念しているということ。
考えすぎてしまう八虎は全く筆が進まず、一年の時は数を描いてこなかったので自分の絵が下手になっているのではと更に悩みます。
八雲の描いてるところにふらっと寄り、八雲と話すシーン。
考えがまとまらない八虎に対して、考えながら描くよりも見切りで始める方が楽しくて良いと言う八雲。
「ただ描いただけ」にはコンセプトがないから駄目だとする八虎に、それは教授の好き嫌いだとする八雲。
感覚だけで描くことは成長には繋がらないが、そもそも考えながらは描けないし、頭でっかちになっても自分の想像の域は越えられないのだから、とにかく描くのみ。
八雲は感覚で動くタイプのキャラで、八虎とは真逆。いまいち納得仕切れない八虎でしたが、なんとなくヒントをつかんで、電車内でただただ周りの人物を紙に落としていきます。
一回ノリにノると最後まで突っ走れるのはよくありますね。歯車がぴったりはまったような感覚。最初は確かに考えることもあるかもしれませんが、ふと始めた筆があれよあれよと完成まで進んでいく、無意識に500枚も描いている、それこそ楽しいという感覚なんでしょうね。
八虎は課題をやり切り、充足感も得られます。犬飼先生からは「いつまで自分の中だけで留まっているのか」と諭されますが、意外にも響かなかったようで、それだけ夢中で自分の気持ち優先で描けたということですね。周りを気にしがちな八虎にとっては良い感じなのかなあと思います。
次の課題もまた犬飼先生。「罪悪感」をテーマに制作、という課題。今回は頭と心を動かす課題。期限は二ヶ月。
八虎がふらふら歩いていると、別の科で仲良くなった人たちに遭遇。ヘルプを頼まれ付いていくと怪しい場所へ。
「ノーマークス」という反権威主義を掲げる芸術家の集まり。何でも誰でも自由にやれる環境、そんな集団をまとめる不二桐緒という女性に出会います。
天然っぽくてふわふわしていて、リーダーシップがあるようでもなく凄そうに見えない、八虎は不二桐緒という人物を不思議に思いますが、話をしているとなんだか自分を肯定されたようで落ち着く。
気付くと学校に行かず、ノーマークスにばかり顔を出すようになっていました。
八雲が言っていましたが、課題に追われ大学の意味がわからなくなっているところにそんな「自由」を体現した場所があればそれは魅力的に映るだろうと。
アート、という言葉はあまりにざっくりしていますが、だからこそ描き手の人たちは自分の思うままにやりたい、そう思ってしまうのは致し方ないと思います。
個人的にもアートは何でも有りの自由なものという印象はあります。だからこそ、学校に縛られることに違和感を感じる人がいるのもわかります。
不二の美術に対する気持ちはなるほどなと思いました。美術館に飾られている事自体が、その絵に対して意味を持ってしまうというのは変だなとは感じます。美術館でなんとなく「ありがたいもの」として見るのではなく、自分の日常の一部であって欲しいという不二。歴史がわかると美術は面白くなるという話は納得。
こういったいろんな角度から物事を捉える感じ、著者の得意なところで、天才的というか流石だなあと思わざるを得ないです。
なんか、悩み事とかあったら山口つばささんに相談するべきなんじゃないかと思います。
少しずつ不二に惹かれていく八虎。八雲が言っていましたが、不二は一度読んだ本は一字一句覚えているらしい、と言われているようで、記憶力の化け物。
八虎との会話シーン、八虎の作品を展示会で見て覚えてくれていて、八虎は心を動かされます。
学校には行かずノーマークスにばかり顔を出し、不二の魔力に取り付かれている八虎。
「この人は 頭がよくて マイペースで それでいて自分の意見は一切曲げずに 相手の心にチューニングするのが天才的に上手い」
この八虎の分析がまさに不二のキャラクターを言い当てています。様々な人がノーマークスに顔を出していますが、どんなタイプの人でも不二には心を許している、そんな魔女のようなキャラクター。自分の好きなようにやってるだけのようですが、カリスマとはこういう人のことを言うのだと思います。
偶然訪れた展示会で偶然犬飼先生に会い、独学で描いているという主催者に向けて「どこの美大出ですか?」と聞いた犬飼先生。
美大を出ていないというと悟ったような風に「そうだと思ったんですよね」と言います。
八虎はそのやりとりを見てもやもや。美大を出てるかどうかと美術は関係ないだろうと。大学って、何なんだろうと。
そしてノーマークスに顔を出している一人が大学を辞めようとしているという話を聞いて、辞めるとまでは行かずとも大学に意味を見い出せなくなってきてしまった八虎。
学校に行かず課題も進まず、不二との会話の方が居心地が良い。宗教みたいですが、それは不二も言っていて、そう見えるのは仕方がないと。
そんな集団に、というよりも不二にどっぷりの八虎は、不二の論調にあてられ美術の楽しさに改めて気付きます。
せっかくあんなに苦労して入った大学ですが、まあ入るまでが一番燃えて、入ってからは燃え尽きてしまうというのは難関大学にはよく言われることです。
ただ大学側の、世田介や八雲の意見が聞きたいですね。ノーマークスや不二に対してどう思うのか、それはすごい気になる。
どちらが言い悪いと言うことではないのだと思います。それぞれが自分に従って活動してるだけの話。
八虎は自分探しの旅の最中なのでふらふらとしてしまって、その都度大きく感情が揺さぶられていきます。ブルーピリオドという作品においてこの八虎の性格はあまりにマッチしているというか、素晴らしいですね、本当。
要領はいいはずなのに真面目過ぎてなんだか不器用、という八虎というキャラクター。物語を動かす主人公としてこれ以上ないキャラ。すごい。
他にも様々なキャラクター、環境、意見等、いろんな視点から物事を見ていくのが本当に上手いです。
12巻になりましたが、まだまだ迷走中の八虎。課題はどうなるのか、ノーマークスとの関係、大学への気持ちの整理は付くのか、次巻も楽しみです。